恋愛の彼方―プロローグ
12,400㎞、時差13時間の超遠距離恋愛私小説

「写真を撮ってもらえませんか」
漓江の水面に反射するオレンジ色の夕陽を背景に、その女性が声をかけてきた。屋上に設置されていた籐のベンチから身を起こして、彼女のカメラに手を伸ばした。
「いいですよ」
彼らは、熟年のカップルで、屋上テラスの一角で仲良くおしゃべりしていたのを横目に私はビールを飲んでいた夕刻だった。
悠々と流れる大量の河川水の向こう側にはカルスト地形の山々があり、その合間にゆっくりと沈もうとする太陽を背景に、彼らは並んで座った。つないだ手は放そうとしない。
「どちらからですか」
カメラのファインダーをのぞきながら尋ねると、夫の方が
「スウェーデン出身です」
と、答えた。カメラの前で二人はますますくっつきあい、仲睦まじさを最高潮にした。
一枚だけの写真のつもりが、もう一枚、もう一枚…と、何枚撮影新たのかわからなくなった。でも、夕焼けの、一番きれいな瞬間をカメラに収めたいという気持ちはわからなくもない。それほど、美しい夕焼けを共有できる相手がいるということは幸せだと思った。
日が沈んで暗くなり、相手の顔がよく見えなくなるまで専属カメラマンをさせられたあと、やっと解放された。スウェーデン夫婦は、私が撮影した写真を確認しながら「ありがとう」といって、
「私たち旅行先で知り合った仲なのよ」
と、うれしそうに私に自慢した。
このときは、まさか自分も将来同じように、「私たち、旅先で知り合ったのよ」と二人のなれそめを語ることになるとは、思ってもみなかった。
次の章:
